【J3メソッド】インナーブランディング 企業文化を育み、成長を加速させる

はじめに
1986年、渋谷の一角でデザイン会社として創業して以来、私たちは「人が、ヒトと、ひとへできることを大切にしていこう」という企業理念のもと、クリエイティブで多くの企業や地域をご支援してきました。 その力を発展させ、現在はブランディングファームとして、ブランドコンサルティングからクリエイティブ、マーケティング、グロースまでバリューチェーンを構築することで、幅広いクライアントのさらなる価値向上をワンストップで支援しています。そんな私たちが、実際にクライアントをご支援するときに行っているブランディングメソッドを、本シリーズを通してご紹介していきます。
インナーブランディングとは何か?
インナーブランディングとは、企業がさまざまな活動をしていくために掲げる理念、ビジョン、行動指針などを、従業員(インナー)に対して深く理解させ、共感を促すための活動全般を指します。
この活動のゴールは、従業員一人ひとりが企業ブランドの「体現者」となり、お客さまへの対応や日々の業務を通じて、一貫したブランド価値を提供できるようになることにあります。
アウターブランディングとの決定的な違い
企業が、一般消費者や取引先などの「外部」に向けて、企業イメージや製品・サービスの魅力を伝える活動のことを「アウターブランディング」と呼びます。
一方、インナーブランディングは、その名の通り「内部」に向けた活動です。広告や広報活動でどれだけ魅力的なメッセージやブランドイメージを市場に発信しても、実際に製品・サービスを提供する従業員がその価値を理解し、実践できていなければ、顧客体験(CX)は低下してしまいます。
インナーブランディングは、アウターブランディングを成功させるための基礎であり、両輪となって機能することで、企業のブランド力が適切に積み上げられていきます。
つまり、インナーブランディングとは、従業員を「ブランドのファン」にし、「体現者」へと育てる活動ということです。
インナーブランディングのメリットと重要性
インナーブランディングは、単なる社内啓発活動ではなく、企業の成長に直結する重要な経営戦略の一つです。具体的に企業にもたらすメリットと、現代において重要性が高まっている背景をご紹介します。
- 1. 従業員エンゲージメントの向上と離職率の低下
- 従業員が企業のビジョンや存在意義に共感し、「この会社で働くことに意味がある」と感じることで、エンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)が向上します。その結果、業務へのモチベーションが維持され、生産性が向上し、優秀な人材の早期離職を防ぐ効果が期待できます。
- 2. 顧客体験(CX)の質の向上とブランド価値の統一
- ブランドの価値観や姿勢が社内に浸透していると、従業員は自律的にその考え方に基づいた行動をとれるようになります。例えば、「最高のホスピタリティ」を価値観として掲げている企業であれば、マニュアルを超えた判断が必要な場面でも、従業員は常に顧客にとって最善の対応を選択して提供することができます。これにより、提供されるサービスや顧客体験の質が安定し、ブランド価値が一貫して顧客に伝わるようになります。
- 3. 採用活動(採用ブランディング)への波及効果
- インナーブランディングが成功している企業は、従業員がSNSや口コミを通じて自社の魅力を発信する「社員広報」が自然に発生します。また、企業理念に基づいた文化が明確であるため、採用活動において、その理念に共感する優秀な人材を集めやすくなります。
- 4. 経営判断のスピードアップとリスクの低減
- 組織全体で共通の価値観や判断軸を持つことで、現場の従業員が自律的に判断し、スピーディーに行動できるようになります。これは、変化の激しい現代において企業の競争力を高める重要な要素です。また、組織全体に一体感が生まれ、不祥事などのブランド毀損リスクを未然に防ぐ意識が高まります。
インナーブランディングを行うときに注意する点
インナーブランディングを成功させるためには、避けるべき落とし穴と、意識すべき原則があります。
1. トップダウン「だけ」にしない
インナーブランディングには経営層からの働きかけが不可欠ですが、施策が「会社からの一方的な押し付け」になってしまうと従業員からの共感は得られません。双方向のコミュニケーションを重視し、現場の声を聞き、施策に反映させる姿勢が重要です。
2. ツール「だけ」作って終わらない
インナーブランディングの施策として、社内報の作成やロゴ入りグッズの配布、かっこいいポスターの掲示など、目に見えるツールの導入に注力しがちですが、これらはあくまでメッセージを伝えるための手段に過ぎません。「なぜ私たちはこの理念を大切にするのか」という本質的な問いが従業員に浸透し、共感や行動に繋げていくための機会や仕組みを合わせて用意しなければ、「余計な荷物が増えた」という従業員の不満を増やすことになるでしょう。
3. 浸透には時間がかかることを理解する
ブランドの価値観が組織全体に深く根付くには、最低でも数年単位の継続的な取り組みが必要です。短期的な成果を求めすぎず、定期的な効果測定(従業員サーベイなど)を行いながら、地道に改善を繰り返していく姿勢が求められます。
4. 評価制度と連動させる
インナーブランディングで定めた「理想の行動指針」が、実際の人事評価や報酬制度と矛盾していないかを確認することが極めて重要です。「理念を体現した行動」が正当に評価されない組織では、誰も本気で理念を信じて行動しようとはしません。
インナーブランディングを成功に導く具体的な進め方
インナーブランディングは、計画的かつ戦略的に進めることで、最大限の効果を発揮します。ここでは、インナーブランディングを成功させるためのプロセスをご紹介します。
STEP 1: 現状分析と目標の設定
● 現状分析: 従業員サーベイやヒアリングを通じ、「現在の社内のブランド認知度」「企業理念に対する共感度」「部門間の連携状況」「習慣化している取り組み」などを客観的に把握します。
● 目標設定:「離職率を○%改善する」「自発的に○○できる従業員を増やす」など、の目標を設定します。できるだけ具体的な数値を設定することで、効果を確認しやすくなります。
STEP 2: ブランドアイデンティティの再定義と明文化
● 保有価値の棚卸し: 自社の資産をメンバーで議論し、保有している価値を確認します。
● アイデンティティの明確化: 自社の存在意義、使命、ビジョン、価値観などを明文化して、理念を改めて定義します。
STEP 3: 施策の設計と実行
● 施策の設計:施策を行う目的やこれまでの活動状況などを考慮し、実施する施策の選定や必要なコミュニケーションツールとその活用方法を設計します。コミュニケーションツールは目的や活用方法に合わせて、使いやすくメッセージが伝わるように制作します。
● 施策の実施・改修:教育・研修や理念を体験する機会の提供、評価制度への組み込みなど、設計した内容に沿って施策を実行します。
STEP 4: 効果測定と改善(PDCAサイクルの確立)
● 測定: 定期的に従業員サーベイやヒアリングを実施し、施策による意識や行動の変化を測定します。
● 改善: 測定結果に基づき、施策の効果を検証し、メッセージやツールの改善を継続的に行います。
事例:理念への共感と行動化を目指したジェイスリーのマイパーパス策定
ジェイスリーは理念に対する自社メンバーの理解度と共感度を高め、一人ひとりの自発的な行動を拡大させていくために、創業40周年を目前に控えたタイミングでマイパーパスの策定を実施しました。この施策では、合計2日間にわたる集中的なワークショップを開催しました。
【Day 1:企業の核となる価値を再定義】
初日は、部門や役職を超えたメンバーが集まり、当社の提供する価値、社会における存在意義、そして目指すべきビジョンについて徹底的にディスカッションしました。この対話を通じて、全社共通の指針となるスローガンを導き出し、企業の目指す方向性を再確認しました。
【Day 2:個人の想いを企業の指針に接続】
二日目では、個人に焦点を当て、参加者それぞれが「自分自身の人生で大切にしている志や想い」「仕事を通じて実現したいこと」といった、個々の内なる情熱を深掘りしました。その後、初日に策定した全社のスローガンと、個々が大切にする志や想いとの共通点や接点を見つける作業を行いました。このプロセスを通じて、「自分がこの会社で特に頑張りたいこと」「自分の強みを生かして貢献したいこと」を言語化し、『マイパーパス』として明確化しました。
この「マイパーパス」策定施策の成功は、単に個人の目標設定に留まりません。企業のビジョンを「他人事」ではなく「自分事」として捉え直す機会を提供した結果、各メンバーは設定したマイパーパスに基づいて、上司の指示を待つことなく自主的・自律的に行動するようになっています。これは、インナーブランディングが目指す「行動変容」を具現化した好事例と言えます。
おわりに
インナーブランディングは、組織の「心臓」を強くする活動であり、企業の持続的な成長には欠かせません。この活動を通じて、すべての従業員が自社のブランドに誇りを持ち、一丸となって価値創造に取り組む企業文化を築き上げることが、結果として強いブランドと高い市場競争力へとつながります。
私たちジェイスリーは、顧客のブランド価値と市場競争力を高めるために、さまざまな顧客の状況に合わせてインナーブランディングを支援しています。自社の課題解決にインナーブランディングが効果的なのか分からない、インナーブランディングに取り組みたいけど何をしたらいいのか分からないなどのお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
広告制作会社、ブランディングエージェンシーを経てジェイスリーに入社。コピーライター兼ブランドコンサルタントとして、さまざまなBtoB/BtoC企業の各種ブランディング実績を有する。マーケティングリサーチ、CI/VI開発、コンセプトメイク、商品開発、ブランディングに関連する各種クリエイティブのディレクションまで手掛け、一貫したブランディングを支援する。ブランド・マネージャー1級資格保有。
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